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ロシア人にとっての『鐘』 [marine的コラム]

昨年秋から今にかけて「鐘」といえば浅田真央選手のフリープログラムと考える人が
増えたのではないでしょうか?少なくとも私はそんな人達の1人です。
浅田真央選手のオリンピックでの「鐘」ー私はとても素晴らしいと思いました。
でも、そう思わない人もいるらしく、ちょっと腹立たしく感じた私はそのイライラを解消すべく、
色々なところで彼女の演技についての感想を読み漁(あさ)りました。

それでロシア人にとっての『鐘』は特別な存在であることを知りました。
このことを記憶に残しておくためにも今日は色々と書いていけたらと思います。
(私の文章を読んで腹が立つ!と思った方には心からのお詫びを申し上げます。)

批判されるのを覚悟の上で書きますが、
私は浅田真央選手と同じ民族の人間であることを心から誇りに思いました。
また、彼女から発せられる思いというものが本当にストレートだったので、
私にもそれに負けぬような気持ちを持って、たくさんの出来事を乗り越えていければと、
たくさんの勇気をもらいました。彼女に対しては感謝の気持ちでいっぱいです。
そして、彼女が『鐘』を踊ってくれたことにありがとうと言いたいです。

セルゲイ・ラフマニノフの音楽<前奏曲嬰ハ短調>は彼の代名詞的存在です。
そんな曲は<鐘>と呼ばれ、今回浅田真央選手のフリープログラム使用曲に選ばれました。
<鐘>という名前がつけられていませんが、
そのモティーフをすぐに感じられるためそのように呼ばれているそうです。
(ほかに<鐘>と名づけられているラフマニノフの合唱交響曲があります。…念のため。)

そんな『鐘』はロシア人にとってどのような存在だったのか。
もともとロシアでは休日であっても鐘の聞こえない日は1日たりとも存在しなかったようです。
彼らは鐘に対して特別な思いを持ち、常に尊敬していました。
そんな鐘はロシア革命によって次々と消えていきます。教会の象徴と判断されたためです。
ロシア革命以前の権力は悉く弾圧されていきましたが、教会もその1つでした。
そのため革命後宗教弾圧というものが行われ、鐘の鋳造も(鐘を)鳴らすことも禁止されました。
ソ連が崩壊してからは鐘の製造も再開され、今でも多くの鐘がロシアでは造られています。
その方法もロシア正教会が定めたものに従っているそうです。
そういう歴史ゆえに鐘という言葉が使われたことわざがロシアには数多く存在するとのこと。
それだけロシア人にとって鐘は大切なものなのです。

ラフマニノフ自身<鐘>と呼ばれる交響曲の紹介(wiki)で、
幼い頃から鐘と共に育ち、彼のインスピレーションはいつも鐘とともにあったと書かれてありました。
…そんな彼は十月革命(ソビエト)で家族と共に他国に亡命しました。

さて、「前奏曲嬰ハ短調」は<警鐘>がテーマです。

ここからは山形リサさんのブログの力をお借りします…。
多くの人がこの内容を引用しているとのことで、私も参考にさせてもらうことにしました。
詳しい説明は彼女の記事を読んでください。
(私のほうでも簡単に紹介させてもらいますが彼女ほど上手く表現できませんのでごめんなさい。)

人々に火事や戦争、災害などの危険を知らせる警鐘と同じ感情を与えています。
たとえば、苦悩や悲しみ、恐怖…など諸々。
そういう思いが詰まった<前奏曲嬰ハ短調>を踊るには、
そのような状況に置かれた人々を表現しなければならないのは当たり前のことです。

ラフマニノフにとってもこの曲が<警鐘>だったんだろうなと思います。
このあと彼は交響曲に失敗し精神的に病んでしまいますし、
ロシアから去らねばならない状況に追い込まれていきます。
この1曲が有名になったと同時に彼は多くの苦しみを天から与えられてしまいました。
そういうことを考えると、ラフマニノフ自身を表現しているような1曲なのかもしれませんね。

だから、そういう曲に合わせた衣裳で踊るのが表現者の役目だと思います。
…そんなときにオリンピックのジンクスを考えてしまうのはどうかな?と誰もが考えるのでは。
まあ、優勝しか考えていないスケーターや表現なんてどうでもいいスケーターがいるのだったら、
そういうのもありなのでしょうが。

私はバレエを踊っていた人の1人として書きますが、
芸術というのは、表現というのは、簡単に審査できないんですよね。
どんな人でも何を表現したいかをたくさん考えて本番に臨むんです。
ですから十人十色の表現が1つの踊りや音楽に対してあるんです。

たとえテレビの人(アナウンサー)が『鐘』について、「女性の愛を…」や「平和と自由を…」といっても、
それに対するアプローチはいくらでもあるということです。
女性の愛を表現するにしても苦しみ、包容力、温かさ…など、
平和と自由にしても、その象徴である鳩や、人の苦しみ、清らかな表情…など、
今ここに例に挙げきれないほどの方法があるんです。
間違えないでほしいのは自分のステレオタイプを求めすぎないことです。
こういう方法もあるんだなということを常に感じることが大切なんです。
分からなければその曲に関する解説を学んだり、作曲家のことや国の歴史について調べてみたり、
きっと表現者がやっていることであろうことを全てやってみてください。
それでも分からなければ…仕方ありません。 

たとえば先日パリに行ったときに私は2組の『椿姫』を観てきました。
(詳しい感想は留学ブログにて述べていますので、そちらをご覧下さい。)
本当に2組の表現したい『椿姫』は全く違うことに驚かされました。
1組はマルグリットとアルマンの愛について、もう1組はマルグリットの純粋な恋について、
表現しているような…私はそのような印象を受けました。(これは私の勘違いかもしれないけど。)
ただ1冊の本からでもこのようにいくつもの表現方法が存在するんです。

なんだか話が違う方向に逸れてしまっているような気がしますので今日はこんなところにしておきます。
思うことを箇条書きにしたような内容になってしまって本当に申し訳ないですけれども、
一応記録として書いたので、読者の皆様にはその記録に免じて許して頂けたらなと思います。
コメント(4) 

コメント 4

ちょんちょん

確かに真央ちゃんの演技は、素晴らしかったと思います。素晴らしい解説、ありがとうございます。バレエは、分からないのですが、なるほどと思いました。
でも、私はできるだけ民族によって、差別しないように心がけています。
オリンピックも試合後、色んな国の人達が抱き合ってる姿に感動致しました。
ここでは、国境とか民族とか関係無いのだなと思いました。差別が無いと。
関係無い話を持ち出して申し訳無いのですが、実は、祖母が大腿骨骨折した時に、病院側が、リハビリも何もせず、寝たきりになり、亡くなりました。日本の病院は、年齢によって、人を差別するのだなと実感しました。
色んな目標に向かって、フィギュアもフィギュア以外もここにやってきている、それを準備してきた人達も凄いと思います。って、話が大きくなりましたが、本当にすいません。
by ちょんちょん (2010-03-06 09:41) 

marine

現在フランスにいるのもあって、日本人であることを感じてしまいますね。
これは何度どんな滞在でも自分のアイデンティティーというものを考えるので、
「いつものことだな」と思って半分ほっておいていますが(苦笑)。
フランス人は日本人に対してそんなにありませんけれど、
中国人に対して差別していますね。…そういうときに残念だなあと思います。
でも、日本人もある民族を非難していることが多いでしょうから、人のことは言えませんが。
今回民族によってものの価値が変わるし、表現方法が無限にあるということを書いたことで、
私にできることは理解できなくてもその表現方法を考える努力をすることだけなんだと改めて思いました。

お祖母さんがそのような扱いを受けられたのは悲しいことですね。
現在の高齢化が彼らの感覚を可笑しくさせているのかなあと思いますが、
どれだけ優秀な人材を揃えてある病院でもそういう態度をとるのなら失格同然ですよね。
やはり病院を選ぶときにはそういうところにも注意しておく必要があるような気がします。
医師は各々の最善をどんな患者に対しても尽くすことが大切ですよね、
少なくとも私はそのように思っています。

各々がそれぞれの目標に向かって頑張る姿をたくさん見られたオリンピックは
本当にキラキラと輝いていましたね。
by marine (2010-03-06 13:22) 

タカナくん

1ヶ月経ってしまったブログにコメントしましてすみません。はじめまして、このブログにたどりつけて嬉しかったです。
 世界選手権が終わり、もうとてもとても真央ちゃんの演技に感動しきりで、あの演技も繰り返し観ました。それでちょうど「鐘」の背景を知りたくて調べていたんです。山形リサさんのブログにも辿り着きました。そしてここに…。やはりですね、改めて凄いなと思いました。あのロシアのコーチがあの北米で(北米のロシアに対する敵意というのは本当に凄いらしいですね)、五輪でこれをやらすというのは。フィギュア人気が凋落していると言われるユーロでもさすがに五輪のフィギュアは観るだろうと。ロシア人もやはり観るだろうと。しかも浅田真央ちゃんにやらせる。本当にこのタラソワコーチは真央ちゃんを認めてるんだなというのが、改めて実感できました。「鐘」の演技を観ながら、ここ数年のフィギュアスケートのことが思い浮かびます。ある選手に合わせてルールが巧妙に変えられていく。GOEの評価基準がある選手に合わせてあーなったりこーなったり。リンクの内外あらゆる手段で攻撃。2シーズンくらい前から点数もどんどんエスカレートしていって。冷や飯食わされた選手がどれだけいたことでしょう。タラソワさんという人はフィギュアスケートの裏もたくさん見てきた人でしょうし、バンクーバーのSPの後一体どんな事が起こるのかある程度予想もしてた部分はあると思うのです。そしてあのフリー、かの選手の演技後の得点の、表示。もーあの瞬間は今でも覚えていますが、ハリーポッターじゃないですが、ヴォルデモートが襲ってきたような、そんな感じでしたねぇ。そしてついに力尽きてしまった。ですが、あの演技には本当に感動しました。冒頭の3Aを決めて中盤までパーフェクト。が…痛恨の…があって、しかし持ち直して渾身のストレートラインステップ。演技後の涙のインタビューはもらい泣きしました。悔しかったでしょうね。勝負云々とか金とか、勿論それもありでしょうけど、何よりあの作品を完成を、五輪で見せたかったのですよね。それもあってか世界選手権の真央ちゃんの演技は大喝采で感動でした。私の中では今まで見た演技の中のベストオブベストです!結果、見事に警鐘が鳴ったと思います。世界のフィギュアスケートが好きで観てた多くの人が気づいてしまったと思います。点とか、ジャッジングとか、ルールとか。みなボンドガールには騙されなかった。バンクーバーじゃなくて今シーズン最後の闘いのトリノワールドで鳴った鐘に、とても運命的なものも感じました。来シーズンからは選手たちに出来るだけ公正なルールが用意されるといいなと思います。私にとっては「鐘」が今のフィギュアスケートに起こってることに見事にリンクしてしまって、後から「鐘」の背景を知ったのですが、通じる部分もあるなと、ちょっと驚いています。あの演技をロシア人はどんな感想を持つのか、そして何よりタラソワコーチはどう感じたのか、ものすごく知りたいところです。
 長くなってすみません。marineさんの熱いコラムに触発されてついつい…。本当に良いコラムだったので。私も浅田さんと同じ日本人として嬉しく誇りに思います。
by タカナくん (2010-04-08 02:57) 

marine

コメントをありがとうございます。私の中でどこか中途半端に終わらせてしまったような気分でずっといたのですが、タカナくんさんのように考えてくださる方がいらっしゃるのは私にとっても多くの勇気をいただいたような気がします。本当にありがとうございます。
確かにタカナくんさんの仰るとおり、あの真央ちゃんのFSはフィギュア界全体にとっての「警鐘」であったと考えられますね。五輪種目であるのだからフィギュアスケートも他のスポーツと同じようにフェアな審判というものが求められているのに、幹部の皆様がそういうことを考えていらっしゃらないことに胸が痛みます。世界フィギュアをきっかけに多くの人々が声を上げ、素晴らしい演技を見せた選手にこそふさわしい結果を与えてあげてほしいと願っています。
また同じことが日本のメディアに対しても言えて。。。日本のメディアは日本人選手に対して本当につめたいなあと思います。朝の某ニュース番組で真央ちゃんとあの選手を比較した企画には大変心を痛め、いくら謝罪してもこの悲しみはとれないだろうと思いました。フランスのメディアは本当に1つ1つの演技をいい意味で素直に評価してくださり日本より日本らしい温かなコメントを日本人選手に対してしてくれています。本当に嬉しいと心から感じています。
真央ちゃんの世界フィギュアでの演技には非常に感動しました。「彼女の「鐘」がここにあり!」と感じた瞬間でもありました。私はスパイラルでの真央ちゃんの表情を未だに機能のことのように思い出せますが、本当に凄かったです。今まで「あの「仮面舞踏会(FS)」の上をいくものは出せないのかも…」と思うときがありましたが、五輪や世界フィギュアを観て、その意見が間違っていたんだなと反省しました。本当に素敵でした。ロシア人にとって「鐘」という愛称で呼ばれる曲は特別な存在なので、今回タラソワさんが彼女に踊らせたのは大きな意味がコーチの中にもあったに違いないと心から思いましたし、来シーズンでタラソワさんが真央ちゃんにどのようなものをもたらしてくれるのか…もうコーチではなくなるとのことですが期待しています。
タカナくんさんの熱い気持ちに感激してしまい、私も色々と書いてしまいました。今度の冬季五輪はソチ!…ですので、どのような舞台がソチで繰り広げられるのか4年後が楽しみです。(北米とロシアの仲は噂には聞いていましたがやはり敵意は存在するんですね…。)
フィギュアファンの方に私の思いを読んでいただけて非常に嬉しかったです。本当にありがとうございました。お互い日本人としての誇りを忘れずに来シーズンも引き続き日本人選手を応援し続けましょう!
by marine (2010-04-08 03:42) 

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