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Mayerling~マイヤーリンク~ [marine的コラム]

マイヤーリンクといえば、あの心中事件を誰もがおもいうかべると思います。
その「心中」という言葉は本当に使っていいのか分かりませんが、
今日の記事ではマイヤーリンク事件を「心中」ととらえて作られたバレエについてなので、
大丈夫!ということにしましょう。(他にも「暗殺」とも言われていますよね。)

今日は英国ロイヤルバレエが最近上演していた『マイヤーリンク』について書いていきます。
私は今年のロイヤル来日公演を鑑賞していませんが、(『マイヤーリンク』も上演されていたので)
この作品をずっと観てみたいなあと考えていましたので、DVDだけ購入してもらいました。
最近発売されたものもありましたけれども、イレク・ムハメドフ版を今回チョイスしてみました。
(最近発売されたDVDに関してはエドワード・ワトソン版ということにしておきましょう。)
ですから、今回はDVDを鑑賞した感想です。


Mayerling [DVD] [Import]

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  • 出版社/メーカー: Kultur Video
  • メディア: DVD



こちらは今回私が鑑賞したDVDです。
イレク・ムハメドフがルドルフ皇太子、ヴィヴィアナ・デュランテがマリー・ヴェッツェラ男爵令嬢、
レスリー・コリアがラリッシュ伯爵夫人、ダーシー・バッセルがミッツィ…など、
本当に豪華キャストなんですよね。
他にもアダム・クーパーやスチュアート・キャシディー(ハンガリー将校)、
サラ・ウィルドー(ルイーズ妃?)、マシュー・ハート(ブラットフィッシュ)などもいます。
皇太子妃シュテファニー役にはジェーン・バーン、エリザベート役にはニコラ・トラナさんでした。
これぞベスト!というようなキャスティングですね~本当に。
…私は小さい頃「ロイヤルバレエ第一!」などと言っていた人間なので、
この出演者には目がキラキラ…!となりました。
ムハメドフはロシアで大活躍なさったあとイギリスに亡命しました。
私が小学生の頃、ロイヤル来日公演での出待ちで頭をなでてもらったことがあったのが印象的です。
確か、その来日公演では『ロミオとジュリエット』のロミオさんでした。(ジュリエットは吉田都さん!)
レスリー・コリアは私が初めて見た『くるみ割り人形』(レーザーディスク)の金平糖さんでしたね。

音楽は全てリストです。私はそんなにリストの曲を聴いたことがなかったので、
「彼はこのような曲を作ったのか」ということを考えながら観ているところがありました。
技巧派の作曲家として名高いリストだからこその良さを存分に生かしていると思いました。
作品の緊張感あふれる舞台を支えている1つが音楽だと私は考えています。

衣裳はニコラス・ジョージアディスです。
彼のデザインした衣裳で1番印象的なのはヌレエフ版『くるみ割り人形』なのですが、
他にもヌレエフ版『ライモンダ』やマクミラン版『ロミオとジュリエット』、マクミラン版『マノン』など、
華やかな衣裳もシックな衣裳もデザインなさっているんですね。
本当にパリオペラ座と英国ロイヤルの間には衣裳でも大きな違いというものを感じますので、
彼の探究心というものの凄さを改めて感じました。



これはルドルフとステファニー妃の結婚初夜のパ・ド・ドゥです。
非常に難易度の高いリフトがたくさんあるので、本当に凄いなあと驚きました。
「ルドルフが妻に対してレイプに近い行為をやってしまう」という場面なので、
ステファニーの恐怖とルドルフの狂気を描き出しています。非常に怖かったです。
私はこの場面からステファニーの味方となりました。

この『マイヤーリンク』は常にルドルフの狂気を感じさせる作品になっています。
なんといえばいいのか分かりませんが、一貫した暗さが舞台にあります。
弱さによりルドルフの精神が狂っていく様を(舞台では)描いているつもりなのかなあと思います。
それだけではなく、ムハメドフの顔がまるで骸骨のように見え、死神が彼のすぐ側にいるようでした。

その死神というのが、マリー・ヴェッツェラではないか(私は)と見ています。
この作品でのマリーはヒロインであるはずなのに出番はそれほど多くはありません。
一幕は確か一場面だけでしたから。それでも、マリーの印象は観客の心に強く残ります。
最初にルドルフの寝室に現れたときマイヤーリンクで2人で過ごしているときに
彼女はルドルフに銃を向けます、彼をしっかりと見つめながら。
そのときの彼の態度というのが彼の精神状態そのものを表すのではなかろうかと考えています。
彼を死へ導いた張本人がマリーであるかのような描かれ方はまるで彼女が死神である、
と示したようでした。しかも、デュランテは「魔性の女」がよく似合う人ですしね。
そのようなマリーを「ファム・ファタル」だと述べる人がいますが、
確かにある男性を破滅へ導くという女性にマリーが重なりますもんね。
ですから、『マノン』と『マイヤーリンク』にいくつかの共通点があるような気がします。

ルドルフにとってラリッシュ伯爵夫人は精神的な部分で彼に強い影響を与えた女性でしょう。
彼女の存在も彼を狂気の渦へ陥れた人たちの1人といってもいいでしょう。
マリーをルドルフに会わせるきっかけを作った人であるので、
ルドルフを死に導く原因を作ったといってもいいよう伯爵夫人でしょうね。
そんな彼女がルドルフの元から去るようエリザベートに言われ、それに従う様は、
どこかルドルフの心に彼女が立ち入ることが禁止されているような気がしました。
ラリッシュ伯爵夫人は精神的なルドルフの支えになっていたんだと思います。
その様子として母親(シシィ)には見られたくない自分の姿をラリッシュには見せられますし、
彼女にはなんでも話せるようなところがありましたから。
マリーに対してもラリッシュは大きな影響を与えています。
彼女こそがルドルフにマリーを会わせた張本人ですもんね。
しかも、2幕の途中でマリーと共に彼女はタロット占いをしますが、
彼女が事前にとっておいた「愛」のカードを彼女の選んだカード(「死」?)とすりかえますし。
そのような理由から、ラリッシュが『マイヤーリンク』の影の主役なのだろうなと思っています。
ミッツィは史実では最初にルドルフが心中を持ちかけた人であることになっています。
ですから、舞台でもそのようなやりとりをしているかのようなところがありましたね。
(『マイヤーリンク』はできるだけ史実に基づこうとした作品のように思われます。)

ミッツィは酒場の女主人ですが、実は宰相であるターフェ伯爵の手先だったという設定です。
ターフェ伯爵とルドルフの間は大きな壁が立ちはだかっているような状態なので、
ミッツィはいわゆる「スパイ」だったのかな?と思います。
しかし、ルドルフの前では高級娼婦のような女主人として存在するので、
ミッツィという女性は計算高いのかなあと考えています。
そんな女性であっても、ダーシーが演じるとどこか上品になり、いやらしさを感じさせません。
そこがロイヤルらしいような気がして、「さすが!」と感激していました。
ダーシーは華やかな人なので一場面だけの出演でも強烈な印象を残します。
美しい人だなあと思いました。…そこが高級娼婦向きなのかもしれませんね。
彼女でノイマイヤー版『椿姫』も観てみたかったですね…残念!

ステファニー妃は本物そっくりといいますか、私の想像していたステファニー像そのものでした。
この作品での彼女はルドルフを愛し、彼との生活を夢見ていた乙女でした。
しかし、結婚初夜にルドルフから恐ろしい目に遭い、貴族が行かない酒場に連れて行かれ…など
彼女の夢見た結婚生活がズタズタに壊されていく様を見せつけられます。
その様子を見ていると、思わず彼女に同情してしまいます。
私はステファニーという女性が好きかもしれません。
彼女のルドルフへの愛はどこか日本人の奥ゆかしさと似ているような気がして、
日本人にはどこか同感しやすい愛の形だと思いました。
『マイヤーリンク』は映画化や舞台化もされているような作品ですが、
大体ステファニーは悪女のような存在になりがちだと思います。(例えば宝塚の『うたかたの恋』。)
これはクロード・アネというフランスの小説家が作り出した歴史なので致し方のないことだと思います。
そのような理由から、この作品がきっかけで、ステファニー妃が好きになったようです。
(以前フランツ・ヨーゼフの伝記を読んだことで、既に彼女への見方が変わっていましたが。)

エリザベート(シシィ)はこの作品でも自分の「美」にどこか酔ってしまっているような女性でした。
自分の唯一の取り柄が「美貌」だと思っているので、彼女はそのことにこだわっているんでしょうね。
1幕で彼女が衣裳部屋で「自分の美しさにうっとりする踊り」というのを披露していますが、
ルドルフが結婚する頃には彼女は既に狂気への道に歩みだしていたでしょうから、
自分の美しさに酔うことでその狂気に打ち勝っているだろうなと思います。
そういう彼女はルドルフを自らの手で育てたことがないため、
母親として彼女を慕うルドルフをうざったく思っているところがあるんですよね。
ですから、1幕で自分に酔っている最中にやってきたルドルフをうざく思うのもそのせいでしょう。
そうとはいえ、シシィとルドルフの間にはいくつもの共通点があり、
彼女はルドルフを自分の分身だと思っているところがあるのでしょう。
(だからルドルフの死後長い間彼の棺でずっと泣いていたのだと思います。)
ですから、ボロボロになったルドルフを見て大きな衝撃を受け、
そんな彼に付き添っていたラリッシュを罵倒したのだと考えています。
そのような彼女の二面性もこの作品では描かれています。
ですから、エリザベートのキャスティングには「美人のダンサー」というのも条件の1つなのでしょう。

フランツ・ヨーゼフの愛人だったカタリーナ・シュラット役にはリンダ・フィニーが。
ずっと旅しているシシィがフランツ・ヨーゼフへの申し訳なさから、
フランツに彼女を会わせたようですが、シシィは彼女のことを結構悪く言うときがあったようですね。
そんなカタリーナにはオペラ歌手が演じることになっています。
これは、ダンサーのシシィと対にさせるためなのかなと思いますが、
2幕で歌うのでオペラ歌手に演じてもらわざるをえないのでしょう。
(バレエでは劇中で歌うということが本当に異例なことなので、最初に聞いたときは驚きました。)

ハンガリー将校は全員で4人いまして、
最初に述べたアダム・クーパーとスチュアート・キャシディ以外にも、
エロール・ピックフォードやウィリアム・トレヴィットも演じていました。
この4人組がかっこいいのですよ。有望の若手ダンサーが踊る役なんでしょうね。
というのも、4人の男性全員ロイヤルでプリンシパルになっていますからね~本当に凄いです。
ハンガリー将校は「ハンガリーの独立のために!」という目的を達成すべく、
影でこそこそ動いています。また、そのためにルドルフを巻き込もうといつも彼の側にいます。
というわけで、結構ハンガリー将校はルドルフと一緒にいますね。
この4人組は眼福です、眼福でした。

ブラットフィッシュはルドルフのお抱え御者ですが、よく踊ります。
女性のような踊りをする人でしたね。…一瞬ですが、女性が男装しているのかと思いました。
彼が唯一ルドルフとマリーの仲を知っていたような人物で、マリーの葬式にも参加しています。
彼はルドルフの心中をよく分かっていた人たちの1人だったような気がします。
最後にマリーの葬式で涙する姿はルドルフとマリーの仲を知っていたからこそであり、
その涙によってどこか救われました。

シュテファニーの姉であるルイーズ妃にはサラ・ウィルドーが演じていましたが、
本当に綺麗でしたね。皇太子とムリヤリ踊らされてとまどっている彼女の心がよく分かりました。

他にもシシィの娘でありギーゼラとマリーヴァレリー、シシィといちゃいちゃしているミドルトン大佐、
ターフェ宰相など様々な人物が登場していました。
様々な人間模様が展開されていて、何度も観ないと全てを理解できないような気がします。

先ほども言いましたが、死んだ後のマリーは非常にかわいそうです。
私が1番印象的だったのは馬車から棺までマリーの遺体が運ばれる姿でした。
マリーがルドルフと一緒に死んだということを隠すために、
彼女は頭に帽子をかぶせられ、コートも着させられ…という状態で運ばれます。
引きずられていく様は本当にかわいそうでした。

この作品の主役はルドルフそのものです。
ルドルフは非常に大変な役柄になっています。
表現の面でも「破滅していく様子」を本物に近い状態に仕上げるのは難しいですし、
踊りの面でもたくさん踊るだけではなく難しいワザや体力勝負のリフトが色々と盛り込まれ、
やることが山のようにたくさんある役でしょう。
そのようなルドルフを自分のものにするのはなかなか難しいといわれています。
ですから、ムハメドフのルドルフは永遠に語り継がれるほどのものだったと言えるでしょう。


Mayerling [DVD] [Import]

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そうとはいえ、ルドルフを演じられるダンサーはいつか現れます。(これは当たり前のことです。)
エドワード・ワトソンがルドルフ役者として注目されています。
(アダム・クーパーも挑戦したようですが、評価はそこまでよくなかったのだとか。)
彼のルドルフはムハメドフとは違った魅力があります。
まず、イギリス人らしい気品があります。次に見た目が麗しく理想的な貴公子そのものです。
そして、彼の苦悩する様はムハメドフとは違ったものを出していると思われるためです。
彼のルドルフも観て、『マイヤーリンク』という作品の奥深さを感じたいなと思います。

『マイヤーリンク』という作品が非常に興味深いなと感じたため、長々と書いてしまいましたね。
まあ、バレエには色々なものがあるんだと少しでも多くの人に知っていただけたら嬉しいです。
これからも私自身たくさんの素敵なバレエと出会っていけたらと思います。

ではでは。
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