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星組大劇場公演『めぐり会いは再び』 [星組]

昨日に引き続き、本日は『めぐり会いは再び』の感想を書いていきますね。
1週間前に観た公演の感想ですので、記憶があやふやなところもございます。ご了承ください。

『めぐり会いは再び』はマリヴォーの『愛と偶然の戯れ』が原作となっています。
マリヴォー作品の特徴であるマリヴォダージュ。恋愛心理を細かく描いた洗練された文体を指します。
このマリヴォダージュに私は写実主義の要素も含まれていると考えています。
例えば、『愛と偶然の戯れ』のシルヴィアと彼女に使えるリゼットの会話から
彼女達それぞれの性格(もしくは職業柄の個性というべきか)も見え隠れしていることがよく分かります。
それは劇作家として、アカデミー・フランセーズの会員として、当たり前のことかもしれません。
まあ、この考察は原書を読んでいたときに考えたことであり、
私が意味を勘違いしながら読んでいる可能性が大いにあるので、この話はここでやめておきましょう。

さて、公演を振り返っていきましょう。


フランスのドタバタ恋愛コメディーがメルヘンチックな物語に変化していたなあということが
観劇後、最初に思ったことです。宝塚らしい夢のような世界に様変わりしていました。
とはいえ、コメディーの要素もしっかりと残されていて…まさに軽いコメディーとなっていました。
作品として軽くなっていたことと上演時間の関係もあってか、恋愛心理が機微に描かれておらず、
マリヴォダージュの良さが損なわれていたことが残念でした。
またドラントの設定も変わっており、(舞台では「庶子」ですが、原作では正真正銘の貴族です!)
宝塚らしく「偏見、気づき、改心」という流れになってしまったことが残念でした。
宝塚らしく「清く、正しく、美しい」という精神が持ち込まれた物語になっていました。
まあ、人々の仮面をとろうとする流れは同じだったので、
『愛と偶然の戯れ』の本質が大切にされていたということがよく分かりましたけれど。
ただ、、原作におけるシルヴィアとドラントの恋愛心理の段階的な変化が
舞台においてはシルヴィアとドラントが様々なカップルの逢引を観察することで
2人の心が変化していくきっかけになっていくというものに変更されていましたね。
まあ、戯曲とは言えども、今回は短いショーも最後につけなくてはいけなかった芝居ですので、
物語の深みをできるだけ軽くさせようとしたことは仕方のないことだったと思います。

今回大劇場デビューの小柳先生は「古臭さ」にどこかこだわっているような気がします。
場面の切り替えに「ブリッジ」を使うところが特に。
今回『ノバボサノバ』が現代風になった分古風に仕上げたかったのかなと思います。
熱いショーのあとに軽いコメディーという組み合わせは観客にとってとてもよかったです。
まさに(どこかの批評家が言っていた通り)「軽いデザート」感覚で楽しめました。
ただ、その古臭さが平井堅の「LIFE is...」の曲風に微妙に合っていなかったような気も。
全体的に昔ながらの雰囲気が漂う中、現代風の「LIFE is...」はちょっとちぐはぐな感じがしました。

また、この作品のサブタイトルが「My Only Shinin' Star」となっていますが、
舞台ではフランス語でいうスターこと「エトワール」が連発して使われています。
スターをあまり台詞として使わないのならば、フランス語でサブタイトルをつければよかったのに、
(「Ma Seule Etoile brilliante」みたいな…)と思いました。
スターはただ初舞台生のロケット曲「Twinkle Star」のためだけに使われたのか、と考えてしまいました。
(さすがにそれは違うでしょうけれど。)
ちなみに、私はブルギニョンがリゼットに対して言う「あなたは私のエトワールです!」という台詞が
1番好きでした。率直だけど言われてとても嬉しい言葉だなあと思うのです。

有村先生デザインの衣裳がとても美しかったのが眼福でした。
衣裳が作品をよりいっそう夢物語にしたといっても過言ではないほど。
本当に有村先生のデザインは素敵だなあと思いました。

辛口な意見を述べましたが、私はこの『めぐり会いは再び』を気に入っています。
この軽さがいいなあと思うのです。

では、次にキャストごとの感想に移りましょう。

柚希さんのドラントは一見器用に見える不器用な男性でした。
庶子でありながら貴族の彼は恋愛に対して不安に思っていたが、
シルヴィアと出会って、だんだんその思いが変わっていく心の流れを上手く表現していました。
また、ブルギニョンが着ていた従者の衣裳をかっこよく着こなすところが、
洗練された貴族らしさを表しているんだろうなと思うと、見た目からこだわるところが凄いと感じます。
平井堅さんの「LIFE is...」を歌っているところもとても素敵でした。

夢咲さんのシルヴィアは本当にかわいらしかったです。
令嬢というよりメルヘンの世界に住むお姫様のような感じで、ピンクの衣裳がとてもお似合いでした。
ひねくれたところがあるお嬢様だけれど、真っ直ぐな心を持つところが愛らしくて。
彼女もリゼットの格好をしていても令嬢に見えるところが「さすが!」と思いました。

紅さんのブルギニョンは面白くてかわいらしかったです。
もともと原作では「アルルカン」という役どころで、
イタリアのコメディー・デラルテという即興喜劇でずるがしこい人気者として登場しています。
イタリア語ではアルレッキーノ、英語ではハーレクインと呼ばれています。
ひし形模様の衣裳に身を包み、道化役者を意味します。
この「アルルカン」がマリヴォーの戯曲では大抵登場していますので、重要な役柄です。
しかし、今回宝塚らしいメルヘンな作品に仕上げるにはずるがしこい道化はいらなかったのでしょう。
ドラントがアルルカンに変装したときに使う偽名「ブルギニョン」が
そのまま舞台では従者の名前になっています。衣裳もひし形模様ではなくなっています。
紅さんはまさにブルギニョンを道化のように演じていたなあと思います。
愛らしくてどこか憎めない道化、それが紅さんのブルギニョンでした。
というよりも、今の星組で紅さんほどブルギニョンを好演できる人はあまりいないのではないかと
考えてしまいました。それほどまでに素敵なブルギニョンでした。
ドラントの衣裳を着たブルギニョンがどんなにかっこよくても(!)
着慣れていないところがよく表現できていたところが彼女の役者魂を感じさせました。
ラストのほうでドラントが全てを明かし、婚約者になることを辞退しようとしたときに、
「ご主人様。嫌です。俺は離れたくない。行きません。」と泣き喚く姿があまりにもかわいらしくて…
ブルギニョンという人物は本当にお茶目だなあと思いました。

お転婆なお嬢様(シルヴィア)に使える侍女である白華さんのリゼットは、
侍女らしくあまり自分の感情を表に出しませんが、恋したら周りが見えなくなるような女性を
好演していました。本当にブルギニョンと彼女の中庭でのシーンは心にきゅんとくるものが。
とてもかわいらしいラブシーンでした。そんなシーンが似合うリゼットも愛らしかったです。
リゼットもまたシルヴィアに扮しているところでドレスに着慣れていない感がよく表現できていて、
彼女の役者としての気合いを感じさせました。

英真さんのオルゴン伯爵はお茶目な人でした。娘を溺愛していることがよく伝わってきました。
組長の人のよさがよく伝わってくるお父様でした。

万里さんのラルゴ伯爵夫人はとても綺麗なマダムでした。リュシドールとの並びが麗しかったです。

涼さんのマリオは髪型からでもクールな感じがよく伝わってくる陰険な男性でした。
ヴィジュアルにこだわっている、どこか冷めた(シルヴィアの)兄を好演していました。
レオニードが惹かれてしまうのも分かるような気がします。
『ロミオとジュリエット』のベンヴォーリオとはまた違った雰囲気の落ち着いた役柄でよかったです。
斬新な髪型もだけれど、主人公達を支える人物がよく似合うなあと感じました。

夢乃さんのリュシドールはどこか3枚目風味の2枚目で…ラルゴ伯爵夫人一筋なんだなあと思いました。
騎士らしくかっこいいたたずまいは本当に剣一筋で生きてきたんだなあと、
アーサー王伝説に出てくる騎士の1人に重ね合わせてしまいそうになりました。

少し閑話休題させていただきますね。
この作品の人物名には『愛の勝利』に出てくる登場人物の名前がそのまま使われています。
(『愛の勝利』はマリヴォーの別の戯曲です。(仏語では「Le Triomphe de l'amour」といいます。))
…アジス(アジズ)、エルモクラート、レオニード(フォション)、コリーヌ(エルミダス)。
(挙げていませんが、アルルカンの名前も勿論あります。)
レオニードやコリーヌが男装することもアジスが王子様なのも変わりありません。
しかし、哲学者であるエルモクラートが劇作家になっていることが変わっていました。

さて、ル・カイン王国第24王子アジスを演じていた美弥さんはアラビア風の格好もよく似合っていました。
どこか後先考えずに思いついたらすぐ行動する彼はまさにお調子者でした。
男のロマンを追いかける様はまさに子どもっぽい!…と思ってしまいましたが、
そんな彼だからこそ一途に思いを寄せるコレットの存在がかわいらしく見えてきます。
早乙女わかばさん演じるコレットの並びも素敵でした。(コレット役の早乙女さんも好演していましたよ。)

レオニード役の音波みのりさんは男装が似合っていないところも令嬢であることを表していて、
「上手いなあ…」と思いました。マリオへの強い想いを感じさせてかわいらしいなと感じました。
そんなレオニードを支える稀鳥さんのコリーヌはしっかり者の侍女でした。
どこかおっとりとして向こう見ずな行動に出るレオニードの良きサポート役でした。
そんなしっかりとしたところが普段の稀鳥さんと重なって見えたりも。
息の合ったコンビに「まさに同期だからなせるワザ!」と思いました。

真風さんのエルモクラートはマリオの友人かつシルヴィアの婚約者候補かつ劇作家である人物で、
知的な男性でした。真風さんの人のよさがちょうどエルモクラートの性格と合致して、
「私がもし結婚するならエルモクラートみたいな人なんだろうな」と勝手に思ってしまいました。
本当に存在感なしでは上手く演じられないだろうなと思ってしまう役どころでしたが、
マリオの友人であることに全く違和感を持たずに観られるぐらいの存在を出せたところが
彼女の成長ぶりを感じさせました。本当にこれからの彼女に期待しています。
舞台に余裕が感じられるようになったことも演技が以前よりだいぶよくなったことも
今回彼女の成長を感じさせられた理由の一部になっていると思います。
次回の『ランスロット』での主演も頑張ってほしいですね。

オルゴン伯爵家の執事ユリウスを演じていた天寿さんも非常に良かったです。
ラストのほうで今回の婚約の失格者を発表する長台詞の言い回しが特に。
本当に今回のキャストの中で結構目立っていたほうだと思います。とても美味しい役柄だったのでは?

マリオの妹かつシルヴィアであるアルビレオを演じた妃咲さんは怪演といってもいいほどの演技で、
本当に素晴らしかったです。今回の芝居での敢闘賞はまさに彼女ではないでしょうか。
あの高笑いを今でも忘れられません!彼女の役者としての才能は凄いものがあると思います。

旅芸人の集団は狂言回しとしての役割として観客を物語の世界をいざなうには
良い存在だったと思います。でも、役不足だなあと思える人もいましたね。

さて、今回は初舞台生公演だったのでロケットに結構期待していたのですが、
ちょっと私好みではなかったかもしれないですね。
かわいいポーズや振付があったとしてもロケットのダンスとして魅了させられるものはなかったです。
音楽学校の試験が変わったことに対する影響がここにも現れているのかなと痛感させられました。

ではでは、今日はこれぐらいで。

※今回記事を作成するにあたりMarivauxのwikipediaの紹介ページを少し参考にさせていただきました。
フランス語のページだったので、読解には時間がかかりましたがいい勉強になりました。
勿論、『愛と偶然の戯れ』と『愛の勝利』の紹介ページも参考にさせていただきました。
コメント(2) 

コメント 2

ゆえ

おぉ!見られた☆
実はここ2・3日いくら開いてもこのページは存在しませんって表示されて、予告なしにまさかの閉鎖(゚д゚)!?ってショックだったので一時的にうつらなかったってだけで良かったですー。・゚・(ノД`)・゚・。
ねねちゃんのシルヴィアかわいいですよね(*´ー`*)博多座でも見るので楽しみです。
ですがその前にまずブラックスワンを見に行きまーす(^O^)/
by ゆえ (2011-05-19 23:34) 

marine

ゆえさん、お久しぶりです。お元気でしたか?

あらま!ページが開かなかったのですね~なんででしょうね?…謎ですね(苦笑)。
2013年までは閉鎖しないと決めていますが、もしそうすることになった場合、
事前に予告させていただきますので、ご心配なく~!

ねねちゃんのシルヴィアはとてもかわいらしかったですよね。
本当にシルヴィアのピンクの衣裳がお気に入りです^^
博多座のほうでご覧になるのですね~楽しみですね!楽しんできてくださいね!

『ブラックスワン』も楽しんできてくださいね。
私も衣裳目当てにナタリー・ポートマンの熱演見たさに行こうかと考えているところです。
by marine (2011-05-21 17:50) 

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